2012年02月29日

【ここらあで謎解きぃゆうのはどうどっしゃろ?】 第四回:天狗をたずねる(後編)

タイトル.jpg
   
鞍馬にまつわるエコヒイキ

鞍馬山のてっぺんには鞍馬寺があるが、
ここは平安京の北に位置しているため、古くから厚い信仰を集めていた。

かの坂上田村麻呂については、
奥州征討の出発前にここを訪れて建物を寄進した(!)
という記録もあるようだ。

戦いの前に立ち寄るということは、ここはいわゆるパワースポットである。

また、謡曲に「鞍馬天狗」というのがある。
そこでは牛若丸(源義経)がこの鞍馬山の大天狗の下で武芸を修めたことになっており、
そのため鞍馬駅構内には、牛若丸と天狗の修行風景を描いた絵画がいくつか飾られている。

天狗は山の奥深く、僧正ヶ谷(そうじょうがたに)というところに住まっていたため、
名前を鞍馬僧正坊(そうじょうぼう)といった。

僧正ヶ谷は鞍馬から貴船に抜ける山道で、今でも木々が鬱蒼と生い茂るところである。
行ってみると分かるが、ものすごく雰囲気がある。
ここに人知を超える存在を疑わない方がおかしな話だ。

振り返ってみると、いかにも天狗が似合う山である。(後出し感がすごい。)
ハイキング自体は、まったく辛いものではなかった。山がすさまじく高いわけでもない。
しかし地表にむきだしになった木々の根は、血走るように盛り上がって山肌を覆い、
山のそこここに大岩もある。

これを見れば「鞍馬山には天狗がいるぞ」というはなしになるのも頷ける。 

ここまでいいように書かれては、鞍馬山も天狗になるかもしれないが。

第九稿イラスト.png


(補遺)天狗の2つの顔

『今昔物語』では、天狗は外来モンスターであるという立場から、
天狗の使命を「仏法弘布の妨害」だとしているようだ。

あるとき天竺から中国に流れる水が「諸行無常、是生滅亡・・・」と
『涅槃経』の一節を唱えていた。
「仏法弘布の妨害」を使命とする天狗としては、
川の水なんぞにお経を唱えられてしまったのでは格好がつかない。
そこで流れの源をつきとめんとしていたところ、
いつのまにやら日本(比叡山)に着いてしまった、という。

一方、広く知られているのは『源平盛衰記』にみられる
「人間は傲慢になると天狗になる」という説で、
ここから「うぬぼれること」を「天狗になる」と表現するようになった。

道心のないことから、天狗は見放された存在として語られ、
江戸後期の国学者・平田篤胤も、
天狗は「現世で知識のみ追い求め、精神的な鍛錬を怠った者の姿」であるとしている。

とするとここで天狗の使命とは、
「自分の持てる知識を他の誰かに授けること」になるのではないだろうか。
増えすぎた知識量のために天狗となってしまったのなら、それを減らすしかない。
だとすれば天狗が義経に武芸を教えたり、
山に迷い込んだ者に語りかけるというエピソードにも納得がいく。

そういえばぼくがまだ小さかったころ、夏休みに田舎の祖父母宅に泊まりにいき、
「川へ遊びに行く」と言えば「今日はお盆だから地獄の釜が開くよ、河童が出るよ」と止められて、
川底から河童に足を引っ張られる自分を想像して怯えていた。

こんな具合に、日本では当たり前に「川には河童が、山には天狗が」いるとされている。
あの頃は体が小さかったということもあるのかもしれないが、ときどき川や山が恐かった。
異常に深く、暗く、広く感じることがあった。
こどもが化け物の存在を信じてしまうには充分すぎる。

こうした自然観は日本特有のもので、一般にはアニミズムなどと呼ばれる。
天狗もまた、山に宿る霊魂が人格的存在として扱われた例ではないだろうか。 
   
   
                         
絵と文 川ア 貴彦 [PROFILE]   
    
   
   
参考
奈良本辰也ほか『京都百話』1985、角川選書
奈良本辰也『史都散策 京』1989、河合出版
   
   
    
    
この記事へのコメント
確かに鞍馬山では不思議な力を感じますよね。
「自分の持てる知識を他の誰かに授けること」>これは納得です。
Posted by momo23 at 2012年02月29日 18:19
通りがかりの天狗好きです。楽しいレポートでした!
ここ2年ぐらい天狗をモチーフに色々やっているのですが、
天狗ゆかりの地にはなかなか行けずにいます。
鞍馬もますます行きたくなりました。ありがとうございました。
Posted by てんぐアート at 2012年02月29日 21:02
>momo23さん

鞍馬山の雰囲気は、いかにも天狗がいそうだという
不思議なものを湛えているのですね。
天狗が「知識」のある種イコンのような存在だったと、
この記事で初めて知識を得ることができました。
Posted by ジャンク派 at 2012年03月02日 07:16
>てんぐアートさん

てんぐアートさんのfacebookページも、早速参加させていただきました。
てんぐにこだわり続けておられる視点がとってもユニークで面白いと思いました!
「ジャンク派」のスピリッツにも通じるシンパシーを感じました!
この記事をきっかけに鞍馬山にも天狗にも興味を持ちました。
僕もいってみたいです。
Posted by ジャンク派 at 2012年03月02日 07:20
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